そら
詩 金子光晴抜粋による)
このごろは そらをみると
かへることのさびしさをかんがへる
たれも かれもがかへりをおもひたつ
ひかりのかぎり そらにうかぶくも
生きてることは せうことない
肌でよごす肌 ふれればきずつく心
そのうへ 女はいたづらに 待ち
をとこたちは こころに宝塔を想ひ
うつろひゆくものの むなしさと
むなしいものの にぎやかさとを
タイルではりつめたそらのあかるさは
しだ うらじろの あはいみどり
水よりもはるか 大気のながれよりも
真空よりも やみよりももつとふかい
かへるところよ ひとのさびしさは
それすらも しるによしないことだ
かへるところは ないのだといふ
石のうへにやすむ しほからとんぼ
おちてくる「ギロチン」を
ひとごとのやうに みあげるそら (1964)